女王様のため息


「お疲れ。遅かったんだな」

私の目の前に立った司の声は、普段よりも小さいような気がした。

「うん。色々と忙しくて、今まで残業してたんだ」

「そっか。……夕飯食べに行かないか?」

「ん……いいよ。もしかして、ずっと待ってたの?」

「ずっとっていっても、それほど長くはないけどな。今日はこのまま真珠と何も話をしないまま帰るわけにはいかないって思ってたから、ま、そういう事だ」

司の言葉が意味する事を、理解できないわけがない。

今日のお昼休みに二人で交わした言葉の切なさに、答えを出したいんだと思う。

私が、そして司が。

お互いへの気持ちに素直になって、寄り添った先に幸せはあるのか。

不安に包まれる可能性はないのか。

今日の午後に伝えられた、私の異動の話に紛れて忘れたふりをしていたけれど、司との未来も、ちゃんと考えていかないと。

「じゃ、いつもの店に、行く?」

何を、どう話していいのか、どう話が進むのか。

不安は拭えないけれど、それでもやっぱり司と一緒に過ごせる時間は嬉しくて、緊張よりもわくわくして鼓動は跳ねる。

司は、ほっとしたように笑って、私に手を差し出してくれた。

そんな事、今までなかったのに。

慣れていない仕草に戸惑うけれど、司への想いが私の感情を素直にさせて、それがまるで普段の事のように。

そっと手を置いた。

途端に絡ませ合った指先の温かさが、不思議と違和感なく私の体に溶け込んでいった。
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