女王様のため息
「真珠が俺の事でずっと悩んでたのはわかってるし、今すぐその悩みを全部消してやれないってのも認める。でも、俺には真珠以外の女に気持ちを預ける事はないから、それを信じて、側にいてくれないか?」
カウンターの向こうにいる若い男の子が、私たちにビールを持ってこようとしているけれど、司の様子に何かを感じたのか、その歩みが止まった。
私と目が合って、戸惑ったようにトレーの上のビールグラスを見せてくれた。
このお店の常連である私達の事を良く知る彼には、今の私達は異質に見えるのかもしれなくて、何だか申し訳なくなった。
「あ、それ、もらうよ」
意識して明るく声をかけると、ほっとしたように笑ってくれた。
「お待たせしました」
司と私の前に置かれたビールは、いつも二人で好んで飲むドイツビール。
このお店でしかお目にかかる事のない特別な銘柄で、司と私のお気に入りだ。
私達の事を気にするような視線を投げるお店の男の子も普段から顔見知りで、私ってそんなに悲壮な顔でもしているのかと思うくらいに私に同情に満ちた表情を向けている。
そんな男の子に小さく笑って肩を竦めて。
落ち着いた様子で私の言葉を待っている司に体を向けた。
すると、ほんの少し、司の瞳が揺れた。