女王様のため息
「ずっと、不安が消えないんだ。いつか美香さんに司を取り戻されるんじゃないかって考えてしまって、落ち込んでる」
私の素直な気持ちを、ゆっくりと告げた。
本当に、不安が消えなくて、そんな自分に落ち込んでしまう。
「今の司の気持ちの中には、美香さんではなくて私がいるのかもしれないけど、でも……美香さんとの長い付き合いに勝てるとは思えない」
「そうだよな」
「……ごめん」
「いや、謝る事なんてない。俺のこの何年かは、美香の側で過ごしていたようなもんだからな」
私がどう受け止めるのかを気遣いながらも、ありのままにそう呟く司に、少し傷つけられた。
入社以来、私が知っている司の近くには、たとえ見えなくても、絶えず恋人の影がちらついていたから、今の司の言葉は決して大げさなものではないとわかる。
ずっと好きだった人から告げられた言葉は棘のように私の感情の深い場所を傷つけて、司と一緒にいる限り、これからも何度となく傷つけられるのかもしれないと気付いて、更に私の気持ちは重く沈んでいく。
「美香と過ごしていた時間を後悔してる訳じゃない。俺が彼女の側にいたから、彼女はどうにか生きていたんだ。
彼女が、自分は一人ではなくて、孤独を感じないなら、たとえ俺ではなく誰でも良かったのかもしれない。
……だけど俺だって、彼女と元恋人との関係に憧れて、錯覚していたから」
「錯覚……」
苦しげに唇をかみしめている司は、私の呟きに小さく頷いた。