女王様のため息
「恋人になりきれなかったって、恋人候補だったってことか?」
「は?そこ?」
「え?そりゃ、そこだろ。海くん、元カレとは違う雰囲気があるし、単なる親戚よりも付き合いは深そうに見える。まず、気になるだろ」
「あー。そうなんだ。……候補は候補だったかな、お互い」
涙で瞳はゆらゆら揺れていて、きっと司もそんな事わかってるはずなのに、私への言葉は容赦なく続いてく。
「ふーん。一番たちが悪い」
小さくため息をついて、肩を落とした司は、何かを振り切るように眉をぐっと寄せると、泣き顔に近い私なんかお構いなしに厳しい声で。
「どきどきときめいて、将来に控えている憂鬱な現実も直視しなくていい高校時代の恋には魔法がかかってるからな。
実際よりも何十倍も輝いてる思い出だから、一番やっかいだ」
手元のグラスを一気に飲み干して、何度もため息。
私を見ながら『あー、面倒だなあ、あの男』とぶつぶつ口にしている。
「あ、あの、司……?」
司の腕にそっと手を置いて、顔を覗き込むと、途端に不機嫌そうな表情を見せて
「海っていう存在も含めて、それでも真珠が欲しいから、我慢するか」
苦々しげに呟いた。
「それだけじゃない。真珠を側に置く事で、俺が抱え込む憂鬱で気に食わないもの全部引き受ける。
それで真珠を俺のものにできるなら、それ以上に欲しいものなんかない」