女王様のため息
始業時間に間に合うように出社して、早速仕事に取り掛かった。
徐々に忙しさが身に染みてきている『株主総会』の準備。
年に一回催される総会には、わが社の株主様たちが大勢出席されて議論を交わす。
……あまり議論を交わして欲しくはないんだけど。
株主提案などがあると、その対応への業務も増えるし、あまりにも総会でもめてしまうと社外への対応も出てくる。
会社の評判が悪くなることも考えられるから、できれば社長が段取り通りに問題なく議事進行し、総会を閉会して欲しい。
今現在、わが社の売り上げは右肩上がりで利益も順調に出ている。
役員や社員に悪い評判が社外に広がっているわけでもない。
取り立てて配慮すべき案件はないにしても、総会当日何が起こるのかわからないから、担当部署である総務部はもちろん、サポート部署である経理部や経営企画室、広報部など、当日まで何かと胃が痛くなるほど神経を使う日々。
これからの約二か月間が、心身共に疲弊する魔の期間。
入社して以来、季節行事としてのこの時期が嫌で、何度も辞めたいと思ったけれど、いざ今年がこの業務に携われる最後の年かもしれないと思うと、複雑な気持ちになってしまう。
例年以上に丁寧に、間違いなく、しっかりと仕事を進めていきたい。
最後の年になるかもしれないと、そう思ったのは、
『異動の件、辞令が出るまで口外するなよ』
総務部の部長からこっそりと耳打ちされたからだ。
その途端に昨日聞かされた異動の話を思い出して、青ざめてしまった。
夕べ、司との事に気持ちはいっぱいいっぱいで、すっかり忘れていた。
異動の話を聞いた瞬間は、他に何も考えられないほどにその事だけが私を覆い尽くしたのに。
昨日、司の事へと気持ちを切り替えた途端、異動の話なんてすっかり抜けていた。
今朝も司と一緒だったのに、全く思い出すこともなく幸せな気持ちしかなかった。
ようやく気持ちを寄り添わせたのに。
異動なんて、切ない。
何てことだ。