女王様のため息
部長の席をチラチラ見ながら、手があいたなと思った隙に、すっと側に立った。

「あの、部長……?ちょとご相談が」

「ん?急ぎか?……あ、急ぎ、みたいだな」

私の強張った表情を見上げた瞬間、部長は慌てて、それまで読んでいた資料を机の上にばさりと置いた。

「例の話ですけど」

部長は、小声で話す私を手で制して、

「隣、行くぞ」

「あ、……はい」

隣の打ち合わせ室に向かう部長の後を追って、私も続いた。

打ち合わせ室に入って、会議用の椅子に腰かけると、部長は苦笑しながら私を見た。

「何だ?異動を断るっていう話か」

「え?お断りできるんですか?」

「んー。まあ、会社も鬼じゃないからな、よっぽどの理由があれば考慮してくれるけど、ほとんど無理だな。俺らはサラリーマンだから」

「……ですよね」

やっぱり、異動自体を拒むなんて無理だな、と肩を落とした。

新人でもないし、これまでだって、自分の意思に関係なく異動していく人たちをたくさん見てきたから、私が断るなんて無理だとわかってはいたけれど。

改めて、そう言われると落ち込むな。

全国転勤がある総合職として採用された時から、こういう日が来ることはわかっていたから、今更断るなんてのは身勝手だし。

「じゃあ、異動のお話はお受けしますけれど、今日にでも言いたい人がいるんです。……言ってもいいでしょうか」

気持ちを切り替えて、思い直したように顔を上げた。






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