女王様のため息
その晩、意を決して司に異動の事を話したのに。
「そうか、まあ、仕方ないか。研修部を西と東に分割するってのはちらっと聞いた事もあるしな」
私の部屋で、ビールを飲みながら、あっさりとそう返してきた司。
その声のあっけなさに力が抜けてしまった。
「うちの会社の総務部で何年か働いたら、社内では無敵だからな。
研修部に限らずいろんな部署からハンティングの手が伸びるし。
真珠が欲しいって言ってる部署、本社に限らず他にもあるぞ。
総務部の部長は口が堅いから言わなかったと思うけど、社内では結構憶測が飛んでた」
司がどういう反応を見せるのかと緊張しながら告げた異動の話なのに、彼は全く動じる様子もなく、受け入れている。
私にその話がくる前から、私の異動の話は察知していたようで、本人である私の方が混乱してしまった。
『離れるなんて、我慢できない』
『異動なんて断って、俺の側にいろよ』
って事、まさか司が言ってくれるとは思ってなかったし、私だって異動を断るなんて選択肢は最初から捨てていた。
だから、もし司がごねたらどうしようかと、それを悩みながら、そして、そんな状況を味わうのも恋愛経験値の低い私には憧れてる部分でもあったから、少しだけど、わくわくしながらの告白だったのに。
「総務部が真珠を手放すにしても、株主総会後だよな。
ってことは、7月の組織変更に組み込まれるってことか。
研修部だけじゃなく、全社で大きな組織変更があるって聞いてるから、これから色々と驚く事もあるんだろうな」
私が作った『きんぴら』をつまみながらビールを飲んで、淡々と頷いてる司を見つめるだけの私。
私の異動、それもかなり遠くに行ってしまうのに、この男はその事を何も思わないんだろうか。
私の事、手放してもいいとか、思ってるんだろうか。