女王様のため息
「あの、司……?えっと、私がどこに行くのか、言ったよね」
司が私を好きだと言ってくれたのは、私の夢だったのかと不安になりながら、どうにか聞いた。
まさか、夢じゃないとは思うけど、誤解……?でも、あんなに優しく抱いてくれたのに……。それも、幻?幻聴?
私の弱々しい声に、司はくすりと笑って。
「ちゃんと聞いてる。ここから二時間はかかるから、引っ越さなきゃだめだな。
向こうで部屋を探す時には一緒に見に行こう。3LDKが理想なんだけどな」
「ん……引っ越しは、そりゃ必要だし、部屋探しには司にも来て欲しいけど。
司は、何も、思わないの?」
「え?何もって、何?」
私の口に、テーブルに並べてある料理をお箸で食べさせながら、
『うまいな、このスペアリブ』
とかぶつぶつ言っている司は、呑気という表現がぴったりなくらいに穏やかで。
「だから、私と離れるの、大丈夫なの?寂しくないの?」
思わずとがった声でそう叫んでしまった。
せっかく思いが通じ合って恋人同士になれたのに、その途端に離れて暮らすことが決まって。
今まで我慢していた時間を取り返すべく、司の側で幸せな気分を味わいたかった私の願い全てが無理になってしまったのに。
寂しいって思うのは私一人なのかな。
司には、離れても平気なくらいの気持ちしかないのかな。
あー。なんだか目の奥が熱い。泣けてきそうだ。司のばか。
涙が出ないように、そっと天井を見上げると。
「誰が真珠から離れるって言った?真珠が転勤になるなら、俺がそっちについてくから、安心しろ。逃げたって追いかけるし離さねえ」
穏やかな声が聞こえて、私の体は司の胸に抱き寄せられた。