女王様のため息
後で聞いた話では、司の熱意も大きな理由ではあったけれど、相模さんが司の描いた設計図面を見て、気に入った事が一番の理由だったらしい。

そして、今では『相模恭汰の後継者』と言われるほどに仕事で結果を出している男だ。

社内外からの評判を裏切らない、そして相模さんからの信頼も厚い司を、私の異動によって仕事に支障が出るかもしれない状況に巻き込んでもいいのかと、悩んでしまう。

通勤に時間がかかればそれだけ仕事に割く時間が減ってしまうし、心身ともに疲労だって蓄積する。

期待をかけられている将来有望な建築士である司を、引きずり込んでいいのか。

愛しているし、離れるなんて寂しすぎるし苦しい。

一緒に暮らしたいし結婚もしたいけど、それって、司にとっては本当に幸せな事なんだろうか、と申し訳ない思いも募って。

プロポーズに素直に頷けなかった。

そんな私の様子は無視したまま、新しい暮らしに向けて目を輝かせている司を見ていると、複雑だ。

けれど。

『仕事ごときに真珠との未来を邪魔されたくない』

司の言葉に、すがるような甘えるような、そんな感情が私を覆う。

司が築きつつある社内での仕事の実績と、周囲からの期待に水を差す事になるかもしれない私との結婚。

その事実から目をそらしてはいけないけれど、無意識に考えずに。

今はただ、司の隣に堂々といられる幸せに浸っていたかった。


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