女王様のため息
まだ異動の件は公にしてはいけないと言われているけれど、心で
『部長、すみません』
と謝って、奈々ちゃんに軽く話した。
7月の組織変更で私が研修部へと異動し、本社から離れる事。
『噂だけど、全社の精鋭たちが新しい研修部に召集されるらしいよ』
奈々ちゃんの言葉に驚いて目を瞬かせたけど、奈々ちゃんはにやりと笑うだけ。
ま、いっか、とその事は流して、司との事に話を持っていくと、その途端待ってましたというように瞳は輝いて。
「ねえ奈々ちゃん、もしかして私と司の事知ってたの?
でも、私と司がちゃんと付き合いだしたのってここ数日だよ」
そんな話題に慣れていなくて照れている私の質問にも大きく笑った奈々ちゃんは、
「でも、二人ともずっとお互いの事が好きだったでしょ。入社以来ずっとね」
「え?」
どうして知ってるんだろう。
「みんな、知ってるよ」
み、みんな?
「そう。同期は当然だけど、社内で司くんと真珠を二人とも知っている人ならほぼ完璧に気付いてるね」
完璧って、それって。
「知らぬは本人達ばかりなりってことよ」
は……?
奈々ちゃんの言葉に意識が飛びそうになるのをどうにか堪えて、
「な、奈々ちゃん……も気付いてた?えっと、私がその……」
それだけ、言葉にした。
「真珠が司くんを好きで、司くんも真珠が好きだってのは、気づいてたよ。
でも、司くんには彼女いてるしね。どうなるんだろうかとやきもきしながら見守ってたのよ。女王様の恋路をね」
「……」
司との新しい関係、そして私の異動。
それだけでも混乱して右往左往しているのに、奈々ちゃんの言葉はそれを上回る衝撃かもしれない。
私と司の事、そう言えば部長ですらすぐに気付いていたし、役職、年齢問わず、女王様の恋路は注目の的なのかもしれない。
「ねえ奈々ちゃん、女王様は、どうしたらいいと思う?」
思わず大きくため息をついて、顔をしかめた。