女王様のため息


*   *   *


奈々ちゃんが答えてくれたのは。

『私は、生きがいや、やり甲斐を求めて仕事をしていたわけじゃないから。
生きていく為に必要なお金を稼ぐために働いているだけだから、簡単だったよ』

結婚の為に会社を退職する事を、何のためらいもなくそう話してくれた。

私の悩みに解決の糸口を与えてくれるどころか、彼女の言葉にはどんな意味がこめられているのか、わからなかった。

司との付き合いが始まった途端の異動の話に悩んだ私が、遠距離恋愛の先輩である奈々ちゃんに聞いたのは、これからの私の身の振り方というか司との関係性の持っていきかた、なんだけど。

『どんなにやり甲斐を感じて仕事をしていても、生活できない程度のお給料しかもらえない会社ならすぐに辞めてたかな。やり甲斐だけじゃ、お腹はいっぱいにはならないでしょ?』

さらに続く言葉は私を思考の波から遠ざけるように響いた。

わけがわからない。

一体、奈々ちゃんは何を言いたいのか、そして、私が求めている答えを教えてくれる気持ちはあるのか?

きっと私の顔に、そんな怪訝な感情は現れていたに違いなくて。

『大切なのは、自分が生きていく為に必要な事を優先するだけってこと。
格好よく、やり甲斐のある仕事をしているとか、今は恋よりも仕事とか、言うのは簡単だけど、収入がなければそれだけで人生動かなくなるし。
稼ぐために仕事をしていたの。
遠距離を続けてまで仕事を辞めなかったのも同じ理由。
でも、結婚したら、彼の収入だけで生きていけるから、それに甘える事にしたの。それが彼の望みでもあったし、私も専業主婦になって彼の為に時間をつかいたいって思ってるから。
真珠も、結婚して新しい生活を始めるのなら、異動なんてしないで会社を辞めるのも一つの考え方だと思う。
真珠は確かに仕事できるから、研修部が欲しがったのもわかるけど、真珠がいないならいないで、代わりはいるはずだしね。
あ、気に障ったらごめんね。
まあ、色々な意見があるだろうから、私の意見は参考程度にしておいて。
一番に考えなきゃいけないのは司くんの気持ちだし』

すらすらと続いた言葉には、迷い一つないようで、奈々ちゃんの瞳に揺れるものは何もなかった。

きっと、彼女の本心なんだろうと、圧倒されながらも頷いた。

ていうか、そうするしかできなかったんだけど。


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