女王様のため息
それから、司の車で向かったのは、夕べ司が見て回ったという新居候補の物件。
私の異動先から一時間弱だと聞いていたけれど、実際に着いてみると、もう少し近いかもしれない。
けれど、それは今勤務している本社からは遠くなるということで、司の通勤時間が増えてしまうっていう事。
「やっぱり、ここから本社まで通うなんて無理だよ」
最初に連れてこられた物件は、10階建のマンションの8階部分。
司の希望で3LDKのタイプを押さえてもらっている。
新築で人気もある物件だけに、ここ数日で借りるか借りないかを決めなければならないと、私たちと合流した司の先輩、春岡さんは教えてくれた。
司の大学時代のサークルの先輩である春岡さんは、今日は仕事はお休みらしく。
淡いブルーのポロシャツにジーンズというラフな格好で、不動産会社の営業だとは見えない。
けれど、笑顔が爽やかで穏やかな物腰からは、営業に向いているんだろうなと思う。
私と司が勤務する会社の営業マンだって、見た目で採用したんだろうと疑ってしまうくらいに格好いい人が多いし。
最初からそうだったのか、仕事をこなすうちに、そんな外見に変わっていったのかはわからないけれど、春岡さんも、その例外ではなかった。
「でも、俺は防犯もしっかりしてるし、駅からも近いし。ショッピングセンターも近いから共働きの夫婦には休日便利だしな。このマンションがいいんだけど」
リビングに面したベランダから見える景色に目を細めながら、司は大きく体を伸ばした。
夕べ見た物件で、ずば抜けて一番気に入ったというこのマンション。
私だっていいなって思う。
私が嫌だと言った対面キッチンではないし。
でも、やっぱり司の通勤時間にかなりの時間がかかるというのは気にかかる。
毎日の事だから、司の体が心配だ。
司の後ろに立って、そんな事を悩んでいると、私の肩を軽く叩いて
「司くん、よっぽど真珠ちゃんと一緒にいられる事が嬉しいみたいね」
ふふふっと笑う声。
その声に振り向くと、私に優しい瞳を向けてくれる綺麗な顔。
「美香さん……」
肩をすくめて、子供のように笑う美香さんがいた。