女王様のため息


「美香が司の事を本気で愛してるのなら諦めたけど、二人ともそうじゃないって気持ちがありありだったから、ま、俺の粘り勝ちだ。
ようやく美香は俺のもんだ」

心底嬉しそうな声からは、全く照れている様子も感じられなくて、ひたすら幸せに浸っている春岡さんの姿があった。

その姿からは、春岡さんが美香さんを手に入れるまでにどれほどの思いを注いだのかが想像できる。

司と春岡さん二人が美香さんを支えてきたと聞いたのはごくごく最近で、その事をもっと前に知っていれば、私の心の悩みも少しは軽くなっていたかもしれないのに。

司には、そこに気が回るほどの器用さはなかったらしく。

『あ、そうか』

と呟いていた。

「美香と春岡さんがようやく幸せになって、俺も真珠を手に入れようって、すっきりと覚悟を決めたんだ。まあ、そういう事だから、転勤なんかで離れるつもりはないから」

……この車内には。

男どもからの甘い言葉が充満していて息苦しい。

嬉しくないわけじゃない、幸せを感じないわけじゃない。

今すぐ司に抱きつきたいって思うんだけど。

そういう言葉は二人きりの時に言ってよ、馬鹿野郎。

普段強気な態度で突っ張ってるのに、どんな顔をしていいのかわからない。

俯きながら、圧倒的な恥ずかしさに耐えていると、ふと目に入ったのは。

同じように顔を真っ赤にしている美香さん。

視線が合うと、無言のまま二人で頷いた。

心で思っている言葉は同じはず。

『お互い、大変だね』

そして、幸せが容量いっぱいに満ちているのも同じはずだ。
< 176 / 354 >

この作品をシェア

pagetop