女王様のため息
「伊織、生きてるんだよね。何年も会えなかったけど、生きてるんだよね」
涙交じりの私の声が、車内に響く。
そんな私の声に尋常でない雰囲気を感じたのか、司も美香さんも春岡さんも何も言わないで成り行きを見守ってくれている。
三人の息をつめたような空気を感じて申し訳なく思うけれど、それ以上に昂ぶった感情は全て電話の向こう側にいる伊織に届けられている。
今は三人に気を配る余裕がない。
『ごめんね。私から連絡しなきゃいけなかったのに、どのタイミングでみんなに会えるようになるのかも、わからなくて……』
「伊織……今、どこにいるの?」
伊織も泣いているようで、ぐすぐすという声が聞こえる。
『私ね、今実家の近くのマンションに住んでるの。大学を卒業してから、こっちに戻ってきて……ごめん。
連絡するのが怖くて、誰にも言ってなかったの』
「ばか。どれだけみんなが心配したか……」
『ごめんなさい。私もどうしようか悩んでたんだけど。
結局勇気が出なくていままでずるずるとしてしまったの。
でも、暁が……」
不意に伊織の口から出た暁の名前に、ぴくりと私は反応した。
そうだ、伊織に電話をしたのは、暁が日本に帰ってるって事を言おうと思ったからだった。