女王様のため息
「い、伊織ー。私、今ラジオで聞いたんだけど、暁の曲がFMで流れてる。日本に帰ってるんだよ、あいつ」
ほぼ完全に涙声の私の声に、電波の向こう側の伊織は一瞬戸惑いの沈黙を作り出し、そしてそのまま涙をこらえるようにすすり上げると。
くすくすと笑いだした。
あー、あの頃の伊織の笑い声だ。
『あのね、今、隣に暁がいるんだけど。変わろうか?』
「は?隣?」
『うん……連絡しないでごめんね』
「えっと、伊織と暁、会ってるの?え?いつっ。いつあいつは帰って来たのよ。ちゃんと連絡しなさいよ、ばかー」
『あ、その、ごめん。ごめんね。私たちも偶然再会して、えっと、最近なんだけどね』
慌てて言い訳のように話し出す伊織の言葉を聞きながら、あふれ出る涙が止まらなくて。
司がそっと差し出してくれたハンカチを目に当てながら、何度も『ばか』と言い続けた。
『私達、一緒にいるんだよ、また』
突然の嬉しい知らせだけど、あまりにも驚き過ぎて、腹が立つやら泣けてくるやら、ほっとした自分も感じながら。
「何、それ、早く連絡しなさいよ。みんなで盛大に再会のお祝いさせてくれてもいいでしょ?
あれだけ心配かけて、どっかに行っちゃって。ほんとに、暁のばかー。
私の結婚の時には披露宴でヴァイオリン弾きなさいって暁に言っておいて。
じゃないと、一生絶交だからね」
涙でぐしゃぐしゃな顔のまま、声だってはっきりと聞き取れないくらいなのに、それでも私の口は止まらなかった。