女王様のため息
それからしばらくの間、ぽつぽつと近況を話した後
『絶対に会おうね』
と近々の再会を約束して会話を終えた。
助手席に体を埋めて、気持ちを落ち着かせながらも、興奮している感情が冷める様子はなくて、目を閉じて何度も深呼吸した。
ちょうど赤信号で車を停車させた司は、私がスマホをぎゅっと握りしめている手をほどくように手を添えてくれた。
「指先、真っ白だぞ」
はっと目を開けて視線を落とすと、言われた通りの真っ白な指先が目に入った。
「あ、本当だ……。はは、ちょっと興奮しちゃった」
「神田暁って、知り合いだったのか?」
「うん。高校の同級生でね、卒業して以来連絡をとってなかったっていうか、とれなかったの。留学しちゃったし、色々あって」
心配そうな司の瞳に気づいて、意識して明るい声を出したけれど、そんな私の作り笑いにはごまかされない彼は、じっと探るように視線を向けたままだ。
「さっき、ラジオから暁の名前が聞こえてきてびっくりしちゃった。
帰国してる事を知らなかったし思わず電話して……ごめんね、驚かせた?」
小さく笑っていると、後部座席から興奮した声が聞こえた。
「私、神田暁のファンなんです。真珠さん、同級生なんてすごい。
去年ヨーロッパから帰国して、CDを発売したんです」
美香さんが、まるで自分の事のように叫んでいる。
「え、そうだったんだ。私、あんまり音楽の事詳しくなくて知らなかったよ」
「えー、せっかくの知り合いなのにもったいない。
私、CDも買ってしょっちゅう聞いてます。
っていうか、私、小さな頃からピアノをやってたんで、楽器は違えど昔からヴァイオリンのコンクールで賞を総なめしていた神田さんの事はいつも意識していて。
まあ、私は彼ほどの才能はなかったんですけどね」
「あ……そうなんだ」
「神田さんが大きなコンクールで優勝して、ヨーロッパに留学したと同じ頃に私はピアニストへの道は断念したんで、それ以来神田さんの名前を聞く機会は減ってたんですけど。
去年帰国して、やっぱり才能ある人は違うってショックだったなー」
思い返すような美香さんの言葉を聞きながら、私は高校時代の事が浮かんできて切なくなってきた。