女王様のため息
小さな頃からヴァイオリンの秀でた才能を知らしめていた暁は、高校卒業前に、大きなコンクールで優勝してヨーロッパに音楽留学できる権利を得た。
当時恋人だった伊織を日本に残しての留学は、同級生を含め、みんな寂しくてたまらなかった。
ただでさえ、卒業すればみんなバラバラに散っていく事が決まっていて、未来への不安も抱えていた当時、暁が海外へ行く事は寂しさの象徴だった。
でも、一番寂しいはずの恋人である伊織が穏やかに笑っていたから。
みんなそれを口には出さず、卒業を静かに受け止めていた。
けれど。
卒業間近の一月。
突然伊織は登校しなくなり、その理由は伏せられたままで。
唯一知っているはずの暁ですら口を閉ざしていた。
伊織とは別れたと、それだけを話した暁は悲しく辛い気持ちを押し殺すように卒業を迎えて。
卒業式の翌日、ヨーロッパへと旅立った。
結局、伊織は無事に卒業だけはしたらしいけれど、今の今まで顔を合わせる事もなく、居場所すらわからないままだった。
伊織のご両親から
『いつか、伊織の気持ちが落ち着いたら、会ってあげて』
と言われた私達同級生は、いつかその日が来ることを願いながら卒業後の人生を歩んできた。
私だって、一生懸命勉強し、遊び、仕事をして。
伊織との再会を心のどこかで待ちながら日々を過ごしてきた。
「暁と伊織……幸せそうで良かった」
今でもまだ、二人に何があって、どうして別れる事になったのかはわからないし、再会のきっかけだって知りたくてたまらないけれど、今はただ。
「本当に……良かった」
二人の弾んだ甘い声を聞けた事が、嬉しくてたまらなかった。