女王様のため息


春岡さんの案内で二件目の物件に到着した時、ようやく私の涙はおさまっていた。

瞼がひりひりするような痛みは感じるけれど、どうにか流れるものはなくなった。

といっても、車内で泣くだけ泣いて、枯れ果てたに違いない涙なのに、少し気を緩めると目頭が熱くなる。

「さっきの物件よりも少し狭いかな。真珠の勤務地には近くなるけど、どうだ?」

「あ、うん、そうだね、近いね。でも、やっぱりさっきの部屋がいいかも」

ここも3LDKで、角部屋の5階。

住宅街にいくつか並んでいるマンションの一つで、特に目に止まるものもないせいか、せっかく司がチョイスしてくれていた物件なのに、いま一つ気持ちは盛り上がらず。

「そうか。だよな。俺もさっきの部屋の方が気に入ってるから、ここはパスしようか」

「うん、そうしよう」

何度か私に気持ちを確認し直してくれる司にも、乗り切れない返事を返すばかり。

傍らで見守ってくれている春岡さんと美香さんに申し訳ないと思いながらも、

「さっきの部屋に決定しよう。うん。あそこがいい」

二件目の物件に到着してから5分も経たないうちにあっさり決定した。

こんな事ならここに来る必要はなかったな、と本当にごめんなさい、だ。

「大切なお休みなのに、二人そろって無駄な時間を費やす事になってしまって本当に、すみません」

キッチンをあれこれ見て回っていた春岡さんと美香さんに頭を下げた。

不動産会社の営業さんと美容師さん。

二人が休みを合わせられるのは滅多にないって事、言われなくてもわかっていたのに、その大切な休日を私達に付き合わせてしまって、申し訳なくてたまらない。






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