女王様のため息
けれど、美香さんは私の気持ちを軽くするように朗らかに笑って。

「いいのよ。休みに、司くんの大切な女の子を紹介してもらえて、かなり有意義だったから。ふふっ。司くんが恋人にどれだけ甘いのかを見る事ができたし、楽しかったわよ」

心の底から優しいとわかるその笑顔を、美香さんは隣にいる春岡さんに向けた。

「それに、二人で一緒にいられるのなら、どこにいてもいいの。
こうして、私を大切にしてくれているって目の前で実感できる時間ほど貴重なものはないから。気にしないでね」

ね?と春岡さんに首を傾げる美香さんは、とても愛らしくて綺麗だ。

見た目の綺麗なところももちろんあるけれど、心も温かくて、周囲の人を包みこむような優しさに満ちていて。

それはきっと、悲しい経験を乗り越えてきた時間が彼女の美しさを増幅させたんだろうとわかる。

大切な人と別れて、心が壊れた時の美香さんを私は知らないけれど、その苦しみは、察するに余りある。

さっき、何年かぶりで話した伊織と暁がそうだったから。

人間って、あんなに悲しむ事ができて、人生に絶望できるものなんだと知ったのは、伊織と別れて苦しむ暁の姿を見ていた時。

生きる事って、つらいと、高校生ながらに理解してしまった。

そんな苦しい時間を経て、伊織と暁が今は幸せそうで良かった。

そして、目の前にいる美香さんと春岡さんが笑いあう様子に、気持ちが温かくなる。

「大切すぎて、本当は外に出したくないけどな」

不意に聞こえた春岡さんの言葉が、私の意識を引き戻した。

さっき、男性二人が醸し出していた車内の甘い空気をよみがえらせるような言葉が部屋に響いて、何だか体がかゆくなる。

甘くて照れくさい。

そして、春岡さんは美香さんの腰に手を回すと、その体をそっと引き寄せて。

「まあ、司には見せびらかしてもいいけどな」

と、『さらに倍』って思えるほどに熱い視線を美香さんに向けた。

……ごちそうさま。

私の隣に立っている司も、苦笑ともいえるような、複雑な顔をしていた。

でも、司の本心は、そんな二人の様子が嬉しくてたまらないんだと感じているに違いなくて。

それが私にはわかるから、私も嬉しくて仕方がなかった。
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