女王様のため息
「つ、司、まだ、早い……」
「は?この5年、俺は真珠が欲しくてずっと我慢してたんだ。
早くない、遅いくらいだ。結婚する。もう決めた。
……あ、母さん?俺。
ああ、元気だよ。で、俺結婚するから、嫁さん紹介しに連れて帰るし」
よ、よ、嫁さん……。
私の言葉や戸惑いを意に介することもなく、司はさっさと結婚の事をお母さんに話し始めて、嫁さんとまで言ってるし。
「司……」
何だか私の中で、諦めモードのスイッチが入った音がした。
椅子の背にぐったりと体を預けて、苦笑しながら司を見つめていると、もうこれ以上司に何を言っても無駄だと感じた。
これまでの付き合いで、ある程度の強気な顔は見てきたけれど、ここまで自分の欲求を押し付けてくる司を見るのは初めてで新鮮にも思える。
今までは、私への愛情を抱えたまま、美香さんとの事もあったせいでたくさんの事を我慢してきたのかもしれない。
欲しいと思う気持ちを見せず、笑顔というベールの中に本音を隠して過ごしていたのかもしれない。
まあ、それって、優しさという優柔不断さとも思えたりするんだけど。
「は?突然って言ったって、結婚するって決めたのまさに今なんだから仕方ないだろ。
で、いつならいるんだ?早めに紹介して、入籍だけ先にするから。
え?子供?できてないよ……ああ、わかったわかった。
じゃあ、明日でいいんだな?」
あー、明日か……。
一気に緊張感で体が硬くなりそうになった時、司がスマホを耳に当てたまま。
「なあ、俺のおかんが真珠のご両親への挨拶を先にした方がいいって言ってるけど、やっぱりそうだよな?今から行くから、電話してくれ」
は?今から?そんな突然に?
……バカヤロー。
今日何度も言った言葉を、心の中で繰り返した。