女王様のため息

 

    *   *   *


「え?転勤?それも、司くんじゃなくて真珠が、か?」

「そう、7月にね。辞令はまだだけど、確定してるんだ。だから今日家も決めてきた」

「あらま」

案の定、結婚と転勤の事を両親に話すと、無駄にリアクションが多いいつものように目を大きくして驚いていた。

どちらかと言えば能天気な二人。

私が小さな頃から『なんとかなるよ』が我が家の家訓のように認識されていて、私の兄なんかは『反面教師だな、俺らの両親は』と呆れるほどに悩みなど持たずに過ごしている両親。

だから、特に結婚を反対されるとも思ってなかったけれど、司が両手を畳について、額をも畳に触れるくらいに下げて。

『真珠さんと結婚させてください』

と、緊張で裏返った声を部屋中に響かせた時にも

『いいよ。いつにする?来月は旅行に行くから無理なんだよね。
その後なら大丈夫。早くに言ってくれれば空けておくよ』

『そうね。その頃なら披露宴で歌う歌を十分に練習できるし』

『ああ、それなら俺も最近習ってる民謡を披露しようか?どうだろう、司くん』

どうだろうと言いながら、すでに頭の中は民謡を上手に歌っている自分の姿でいっぱいの父さんに、どう答えていいのかわからない司。

『ど、どうなってるんだ?』

私にしか聞き取れないような小さな声で、そっと囁く顔は、これまでで初めて見るかなり焦っている顔。

『この能天気な夫婦の事は気にしなくていいから。とにかく結婚はOKだって』

言外に謝罪の気持ちを込めて、囁き返した。


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