女王様のため息
「ねえ、兄さんにも言っておいた方がいいよね」
蒸し器から茶碗蒸しを取り出している母さんに聞いてみる。
「そうね。きっと驚いて大声あげて駆け込んでくるわね。あの子真珠は海くんと結婚するって思ってるから」
鍋つかみを使ってお盆に一つひとつ茶碗蒸しを乗せていく母さんは、何気なくそう言ったけれど、その裏には何か思うところもあるのかなと感じた。
「玲次が花音ちゃんを連れてうちに来た時、真珠と海くんの表情がなかったからね」
「え……?」
思わず声も裏返るほどに、私は驚いた。
母さんの普段と変わらない様子に気持ちは緩んでいたせいか、海との事をあっさりと言われて、どう答えていいのか。
「高校の同級生で、お互いの兄と姉が結婚。特に何の感情もなければ簡単におめでとうって言って終わるのに、あなた達は寂しそうに見つめ合ってたのよ」
「それは、びっくりして……」
「まあ、それもあったでしょうけど。玲次はね、あ、花音ちゃんもだけど。
二人がゆっくりと育てていた愛情を、自分たちのせいで摘んでしまったって落ち込んでたのよ」
「そんな、兄さん達のせいじゃないよ」
淡々と話す母さんに戸惑いながら、少し大きな声が出てしまった。
兄さんや花音ちゃんのせいなんて、私も海も思ってるわけない。
確かに高校生だった私達は若いっていうのもあったし自分たちの感情に浸ってしまって、『悲劇の二人』みたいな思いも抱いたこと、確かにあるけれど。
「私と海には、お互いの縁を繋げる為に、努力しなければいけない努力をしようとしなかったの。そうしようと頑張れるほどお互いの事を好きじゃなかったって今ならわかる」