女王様のため息
「そんな気をつかわなくていい」

低い声が車内に響くと同時に、私の右手は司につかまれてしまった。

ぎゅっと力がこめられた司の手は、私の手首を全て覆うほど大きくて強かった。

「司……?」

「忘れ物があったって、どうでもいい。真珠が気にすることは何もないから」

私に向けられた瞳はどこか暗くて、それが車内の暗さによるものなのか、司自身の気持ちを映しているのかわからないけれど。

私の手首を覆う司の手が震えている事は気のせいじゃない。

「……司、痛い……手」

小さな声で告げると、はっとしたようにその手が離れた。

「悪い。まだ痛いか?」

司の顔が、私の表情をうかがうように近づくと、それに比例するみたいに私の体は離れていく。

けれど、体が助手席の扉に触れたと同時に逃げ場はなくなって、まるで司の体に押しやられたような姿勢のまま逃げられない。

「司、大丈夫、もう痛くないから平気。心配しなくてもいいから、ちょっと……」

さらに近づく司の体を止めるように、その胸を両手で押したけれど、男の力に敵うわけもない。

お互いの吐息が感じ合うほどの距離感で見つめあう時が過ぎる。




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