女王様のため息
思ってもみなかった展開が幾つか続くと、大抵の出来事には驚かずにやり過ごせる。
最近の私は、人生で味わう大きな出来事が立て続けに降りかかっているせいか、以前よりも腰の据わった自分になった気がする。
司との結婚が決まった事が一番の驚きだけれど、それ以外にも転勤や、自分とは縁がないと思っていた『アマザンホテル』での挙式・披露宴。
思わず『うーん』と唸っていても不思議ではないと思う。
自分が想像もしていなかった現実にいる自分を受け止めて、一つずつ折り合いをつけてきた私への暁からの申し出。
いくら驚きに免疫をつけてきたとはいっても、相当の激震。
マスコミに取り上げられるほどの有名な演奏家が私と司の披露宴で演奏をしてくれるなんて、嬉しさばかりでなく、戸惑いと驚嘆。
暁からの電話を受けた日はずっとその事ばかりが頭の中にあって、仕事でミスを出さなかった事が不思議なくらいだった。
『今日、厳しい事をそれほどおっしゃらなかったんですけど、体調が悪いんですか?』
総務部の後輩から言われたそんな言葉にも、普段とは違う私は、ははっと笑って流すという珍事。
早くもマリッジブルーなのかとひそひそとした声も聞こえた。
私が暁の言葉に意識を持っていかれているのはきっと、暁と伊織の事が気になっているからだと思う。
高校を卒業する間際、どうして二人は別れたのか。
伊織は今までどこで何をしていたのか。
暁と伊織はどうやって再び付き合いだして結婚までたどり着いたのか。
高校の頃の二人の事が大好きだっただけに、一旦よみがえった記憶をきっかけに次々と溢れる懐かしい感情。
そして、一旦離れた恋人同士が夫婦となり幸せに過ごしていると聞いて、必要以上にその事を大きく受け止めている自分に、驚いた。