女王様のため息


「海が私の高校時代のときめきの象徴だとすれば、暁は……ううん、暁と伊織は私達同級生みんなの切なさの象徴なの」

「切なさ……?」

訳が分からないという司だけど、その様子は当然だ。

私と『神田暁』との関係。

というよりも、私達同級生と『暁と伊織』との関係と言った方が正確かもしれない。

「暁はね、高校時代の恋人の伊織と結婚して今は幸せになったらしいんだけど。
二人は高校を卒業する間際に別れて、伊織の消息は最近までわからなかったの。
そんな悲しい過去を払拭して、心配をかけた同級生みんなに謝りたいって」

私の言葉は、司にとっては予想外のものだったに違いなくて、黙り込んで私を見つめているのも理解できるし、少し申し訳なくもある。

突然、披露宴で世間で名前が知られている『神田暁』が演奏してくれるってだけでも戸惑うのに、私の高校時代の切ない思い出までを聞かされて混乱しているに違いない。

「ごめんね、よくわかんないよね」

私はテーブルに広げられている披露宴の資料たちの中から、披露宴の招待状を発送する名簿と、その側にあった写真を手に取った。

目の前の司の手元に写真を置くと、司はそれに視線を落としてじっと見つめた。

「これ、高校最後の体育祭の写真なの。私と海と、そしてこれが暁と伊織。
周りにいるみんなも披露宴の時に来てもらえると思うんだけど」

写真に写っているのは、体育祭のメインイベントとして毎年行われていた
『クラス対抗応援合戦』で。

「放課後遅くまで残ってこの法被を作ったり、太鼓の練習をしたり。
受験勉強そっちのけで燃えたなー」

紫の法被には『絶対優勝』と刺繍が施されていて、頭には同じ生地で作ったねじり鉢巻き。

胸元で腕を組みながら、格好をつけてレンズを睨みつけた高校生の私達。

センターに立っている海をはじめ、クラスのみんなはこの写真を撮ったすぐ後に控えている応援合戦本番に向けて緊張感と高揚感がみなぎっていて。

一致団結という言葉の意味をこの写真から読み取れる、思い出の写真。




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