女王様のため息


司にとっても大切な時間となる披露宴なのに、私の希望を押し付けるようで本当に申し訳なく思うけれど、暁の願いを聞いてあげなければ一生後悔すると思うから。

司がわかってくれるまで頼み込むつもりで唇をぎゅっとかみしめた。

すると。

しばらく何かを考え込んでいた司は。

「ふーん。俺が思うように決めていいのか。そっか……」

「え?」

思いの外明るい声に、顔を上げると。

にやりと笑っている司の視線とぶつかった

「俺が決めていいなら、これがしたいんだよな」

私の必死な思いとは違和感を感じる司のうきうきとした声に戸惑う。

笑顔を浮かべて、披露宴のパンフレットの写真を指差す司は、ちょっと見ろ、と視線を落とした。

その視線の先にあるのは。

「は?シャンパンタワー?」

パンフレットの写真には、新郎新婦が嬉しそうに見上げているシャンパンタワー。

てっぺんのグラスから順に流れ落ちるシャンパンがきらりと光っていて輝いている。

「しゅわっと泡立ちながら零れ落ちるシャンパンの雫がたまんないよな。
現実の中じゃもったいなくてできないし、せめて披露宴っていう非現実の時くらいこんな贅沢してみたいって思ってたんだ」

うんうんと頷く司は、その写真に見入って満足げに目を細めていた。

「そんな事、言ってなかったのに、急にどうしたの?」

「ん?前からしたいなあとは思ってたんだけど、それなりのオプション金額だしもったいないからやめるつもりでいたんだ。
でも、俺の好きにしていいなら、是非ともシャンパンタワーをしようぜ。
絶対に綺麗だし、わくわくするぞ」

……子供みたいに目を輝かせる司は、本当にシャンパンタワーを望んでいるようで。

それまで何も言ってなかった事も相まって、私の驚きはかなりのもの。

「普通、新婦がしたいって言って、新郎は恥ずかしがって嫌がるのに……」

思わず呟いた私の言葉も聞こえなかったのか、司の手には既にペンが持たれていて、披露宴の行程の一部に『シャンパンタワー希望』と記入している。

まあ、いっか。こんなに嬉しそうだし。

小さく息を吐いて、その様子を見つめていると。

「神田暁の演奏、全く問題なし。何人でも同級生を呼んで、思う存分思い出に浸ってくれ。俺は、真珠と結婚できれば何がついてこようが構わない。
真珠が笑ってくれればそれでいいから」

何事もなかったかのように、司が呟いた。

そして、行程表の追加欄には、

『あの!神田暁氏の演奏時間の追加をお願いします』

と書き込まれた。

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