女王様のため息



そんな、結婚式の準備に追われる中でも。

司にとって、私との結婚が仕事への障害になるんじゃないかという不安はどうしても拭えなかったけれど、引っ越しや披露宴の事を心底楽しみにしている姿を見せられると、その不安は日に日に小さなものになっていった。

社長が仲人を務めてくれる披露宴には、社内の重鎮たちも出席してくださるそうで、私の両親はかなり驚いていた。

『もしかして、司くんってすごいオトコなのか?』

司の事を本当の息子のように可愛がるようになっていた父は、結婚の何もかもに驚いて、司を見る目も変わってきた。

世間に知られた名前である『相模恭汰』という著名な建築士の後継者と言われ、期待されている司の事を、宝物のように大切にするようになり。

『司くんの将来を大切に考えないとな。真珠がサポートしてやらなきゃだめだぞ』

と度々言われた。

私が小さな頃から仲が良かった両親を見て育ってきたし、私自身、司の事を大切に思っているから、父の言葉には素直に頷く事ができた。

飄々と呑気に仕事をこなしている司。

余裕ぶった姿勢の裏側での努力は人には見せないけれど、毎日遅くまで図面と格闘し、現場に赴き。

真面目にお客様とも向き合っている。

私の部屋に来るときでも朝早く起きて仕事をしている姿を何度も見た。

『どうせするならいい仕事』

口癖のように呟きながら、面倒な事もこつこつと仕上げていく姿勢が、

『相模恭汰の後継者』

と呼ばれる所以。

司と一緒に仕事に携われば、見た目の軽やかさとは反対側にある真面目な部分を知って、誰もが一気に司に惹かれるらしい。

そしてこつこつと積み上げてきた実績が、今の司のポジションを形成しているはずで、その履歴を失わせるわけにはいかないと、そう思わずにはいられない。



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