女王様のため息
株主総会の前日、私が入社して以来、何度経験しても緊張感が抜けないリハーサルが行われる。
普段は各担当ごとの地方にいる事の多い取締役たちも全て本社に来る。
明日の総会当日はもちろん、前日の今日から緊張感は高まって、とりあえず何事もないようにと、取締役全員、否、社内全体がそれを願っている。
議長である社長が議長席について、リハーサルが始まると、私は会場である会議室の片隅で資料を見ながら耳を傾けた。
今回の総会には、経営内容にも問題はなく、役員たちの身辺にクレームがついたという事もないせいか、比較的穏やかな流れで、順調にリハーサルは進んでいき。
新任取締役員として候補に挙がっている相模さんを筆頭に、退任する取締役を含めた顔ぶれも、それほどのピリピリした雰囲気もない。
明日の本番も、このまま静かに終わってくれればと、きっと私にとっては最後の株主総会の運営を振り返って。
ほんの少しだけ寂しくなった。
あまりにも忙しい、怒涛のようなこの数か月を振り返りながら、そんな日々が早くも懐かしくも思えた不思議な時間だった。
明日の本番では、会場に入らず、受付に立つ予定の私には、今目の前で議長を務めている社長の声ですら、しっかりと覚えていようと思えるほど。
すっかり、異動前の複雑な心境を抱えていた。