女王様のため息
無事に株主総会のリハーサルが終了したのは、ちょうどお昼休みに入る頃。
順調に進めば30分ほどで終了する総会は、途中で段取りの確認などを行いながら進められて、結局2時間ほどかかった。
ほっとした気持ちと、明日に備えての緊張感を含ませた表情を浮かべた取締役や、証券会社や信託銀行の担当者たちが会場から出ていく。
それを見送りながら会場の片づけを始めていると、誰かがそっと私の背後に立った。
何か忘れ物でも、と思いながら振り返ると。
「良かったら、昼、一緒に食べないか?」
「さ、相模さん。え、えっと、お昼ですか?」
細身のスーツをまとって優しい笑顔を浮かべた相模さんが、私を見つめていた。
「忙しいだろうけど、昼休みはあるだろ?一緒にどうだ?」
「あ……、はい。いいですけど、えっと、何か話でも?」
普段、個人的には接点を持たない相模さんから声をかけられて、戸惑いと驚きで鼓動が跳ねて仕方がない。
特に、この間エレベーターで交わした話が浮かんできて、また司が何か無茶な事でも言ってるのかとひやっとした。
一緒に会議室を片づけている総務部のメンバー達も、わが社の顔である相模さんが私に声をかけている様子に興味を持って、遠くからちらちらと視線を投げてくる。
まあ、相手が相模さんだから、仕方ないんだけど。
「特に、真珠さんを悩ませる話じゃないから安心してくれ。
ただ、司があれだけ惚れ込む恋人と俺も仲良くしようと思っただけだから」
どきどき緊張している私の気持ちをほぐすような、からかい気味の声に、ほんの少しほっとしながら、小さく息を吐いた。