女王様のため息
さっきまで軽く笑っていたのに、突然不機嫌さを見せた司にびくりとなった。
きゅっと結んだ口元と寄せられた眉間から、何か私はいけない事でもしたんだろうかと瞬時に考えるけれど、特に浮かばなくて。
強いて挙げれば、こうしてうじうじと落ち込んでいる私の様子が気に障ったのかと思うけれど。
「あの、司……?」
恐る恐る小さな声で呟くと。
「俺を誰だと思ってるんだ?」
「え?えっと……つ、司だけど?」
呆れたようなため息を吐き、意外な言葉を落とす司に、戸惑ってしまう。
不機嫌な様子といい、呟く言葉といい、不可解過ぎて困る。
「俺は、とにかく入社してからずっと、ひたすら仕事に励んできて相模さんだけじゃない、社内で関係する人達からはある程度以上の信用を貰えるくらいには実績を残してる」
「は、はあ……。それは知ってるけど」
椅子の背に体を預けて、淡々と話す司にはかなりの余裕が見られて、余計な事は言えない空気が漂っている。
そんな雰囲気に合わせて、じっと司の話に耳を傾けた。
「確かに、俺が仕事に集中していたのはそれが好きだからだってのもあったし、真珠を手に入れられない苦しさを忘れる為だったってのもあるんだ」
「うん……」
司の言葉には、昔を思い出した切なさが乗せられていて、その気持ちが私にも伝わってくる。
美香さんの側にいて彼女を見守っていた長い時間を思い出しているように見える。
でも、その思いは司だけじゃない、私だって抱えている悲しい過去。
「今となっては、そうやって自分の気持ちも体も仕事に向けて必死で相模さんの後を追っていたのは無駄な時間じゃないってわかるけど、もうあんな苦しい時間は欲しくないな」
口角を上げて苦笑すると、司はじっと私を見つめた。
何度も見つめ合った事がある瞳にはまだ慣れないけれど、交わす視線の甘さからは思った以上の力が与えられる。