女王様のため息
③
* * *
翌日、株主総会は無事に閉会した。
議長である社長が閉会の言葉を述べた瞬間、会場の扉は一斉に開かれる。
提議された議案は全て可決されて、株主様からの幾つかの質問も、事前に準備していた回答で収める事ができるものだった。
会社として、順調に利益を上げて配当金も途切れることなく支払われている。
取締役の中に悪い評判を持つ者もいないとなれば、大した不安を抱える事はないとわかっていても、こうして無事に終えるまでの緊張感は半端なものではなかった。
一年で一番の大仕事である株主総会が無事に閉会して、総務部のメンバーや、サポートで密に絡んでいた各部署のメンバーと笑顔で頷き合った。
「お忙しい中、ありがとうございました」
会場から次々と出ていく大勢の株主様たちを見送りながら頭を下げていると、すっと隣に立った人に気づいて視線を向けた。
「あ、部長。お疲れ様です」
「お疲れ様。無事に終わって良かったな」
「はい、何度経験しても疲れますね」
ふふっと笑った私に目を細めた研修部の部長は、手にしている紙袋を私に見せながら。
「今年の粗品はなんだ?」
「えっと、今年は電波時計ですね。例年通り、新入社員が選んでました」
「そっか。嫁が毎年楽しみにしてるからちゃんと持って帰らないとな」
「とはいっても、時計なら幾つも家にありますよね。
それを新入社員も気にしてたんですけど、なかなか素敵なデザインの時計なので良ければお使いくださいね」
「確かに時計なら家にあるんだけど、それはそれでいいんだ。
ちゃんと今年も株主総会に出られたっていう区切りだからな。
嫁さんいわく、我が家が持ってるこの会社の株を売らなくても生活できる幸せに感謝できる、年に一度の機会らしい」
目を細める部長は、私に笑って見せた。
そんな愛妻家として知られている部長の言葉はとても温かくてほっとする。
株主総会に来て下さった株主様への粗品は、毎年新入社員が色々と考えて決めるけれど、粗品という言葉の響き以上に深い意味もあるんだと、異動前に作る引き継ぎノートにちゃんと記しておかないといけないな。