女王様のため息
そして私の声を聞いた部長が、ざわついた周囲に
『いいから仕事をしろ』
と声をかけた。
普段の穏やかで飄々とした部長の口調とは違う低い声音に、皆何かを察してくれたのか、とりあえず部内からの声はおさまったけれど。
「真珠さん、その決裁願い持って打ち合わせ室においで」
笑顔なのに目元は笑っていない表情で、部長は私に向かって手招きした。
拒否できないような重い口調が私の不安を誘う。
何かあったのかな、と思いながら傍らの上田さんを見ると
「あ、私は詳しい事は知らないんですけど……その、人事部長も申し訳ないって言ってました」
不安げな声で呟いた。
「申し訳ない?ってどういう事?」
「あの、それは、ここではちょっと……」
困ったように俯く上田さんは、見るからに居心地が悪そうで、きっとこの場にいる事がつらいんだろうとすぐにわかった。
「んー。何だかよくわかんないけど、こっちの部長に教えてもらえそうだから聞いてみるね。
なんだか悪かったわね。ここに来るのも、あまり気が進まなかったんでしょ?」
申し訳ない気持ちも手伝って、優しく声をかけた。
まだ入社二年目の若手だったはず。
何かいわくがありそうな書類を持たされての他部署、それも社内では女王様と呼ばれているほどにきつい評判の私のもとへのおつかい。
今すぐ自分のテリトリーに戻りたいに違いない。
「じゃ、私呼ばれてるから。お疲れ様。人事部長にはちゃんと手渡したって言っておいてね」
「あ、はい。わかりました」
ほっとしたような表情で呟いた彼女を見て、相当ここにいるのがつらかったのかと苦笑してしまうけれど、同時に彼女の目は『申し訳なさ』も見せていた。