女王様のため息

「ん?」

私の口からふとそんな声も出るくらいに不安げ。

「あ……あの」

「何?決裁の事なら部長に聞くからいいわよ」

「いえ、その。……私、真珠さんに憧れていて……新入社員研修の時の格好いい啖呵が忘れられないっていうか、スタッフ部門の誇りで……」

「は?憧れてって……」

一生懸命話している上田さんは、両手を胸の前で組んで緊張気味に見えるけれど、それでも私と視線を合わせて必死。

憧れてるって突然言われても、そんなの言われた事もないしどう答えていいのか。

「上田さん、そんな緊張しなくていいよ。それに、私に憧れてるなんて目標が低いんじゃない?もっと素敵な女性はいっぱい社内にいるし。
えっと……設計デザイン大賞をとった織田さんなんて仕事と家庭を両立させているお手本のような人だよ」

相模さんと同期の織田さんはわが社の『おんな相模』と呼ばれるほどにできる人で、社内結婚した後も仕事を続けている姿には、私も憧れている。

「だから、私よりももっとすごい女性を目標に頑張ってね」

優しく笑った私に、上田さんは少しだけ恥ずかしそうに頷くと。

「素敵な女性がたくさんいるのはよくわかってます。でも、去年の新入社員研修で、スタッフ部門の仕事に誇りを持っている真珠さんの言葉を聞いて、私は頑張ろうと思ったんです。
この会社は、設計担当ばかりが大きな顔をしてますから、傷つく事も多いですし、その度に『真珠さんに言いつけてやる』なんて事を心の中で考えながら頑張ってるんです」

「言いつけるって……まあ、設計担当の理不尽なプライドくらいガツンと砕いてやるけど」

「私も、真珠さんみたいに自分の仕事と会社に誇りを持った女性になりたいんです」

変わらず小さくて、自信のない声だけど。

「私は、人事部で社員さんのお給料の管理をしてますけど、結局お給料がきっちりと支給されない限り、どんなにいい設計をしてもご飯は食べられないし。
っていうのは、正論ではないし、私がしなくても他の社員が給与計算をすれば済むんですけど……。
スタッフがきちんと環境を整えなければ設計に集中する事も出来ないって事に誇りを持っている真珠さんのようになりたいんです」

「あ……そうなんだ。あ、ありがとう」

特にそれを振りかざしているわけではないけれど、やっぱり設計をしている社員だけが大手を振っている会社なんておかしいから、それはきちんと口にしようと。

それだけだったんだけど。


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