女王様のため息
「はあ?こ、子供って今言う事かよ」
「あ、ごめんごめん。……だって、司って本当は自分本位で直情型だし思いついたら即実行でしょ?」
ほんの少し笑い声を含んだ私の声は、更に司の機嫌を損ねたようで、
「自分本位で悪かったな。俺はどうせ子供っぽいしわがままなお坊ちゃんなんだよ」
「ふふっ、ちゃんと自覚してるんだね」
変わらず笑っている私の言葉に、更に顔をしかめた司を、それでも格好いいなと思うし、愛しく思える。
今までの司には見せてもらえなかった表情と声が次々と私の目の前に現れて、何だか気持ちがいい。
だから、私だってこれまでとは違う自分が素直に出せる。
「司が隠してる本音も、子供っぽい素直さも、どこまでも自分の我を通す強さも、全部好きだから、拗ねないで」
「そんな事を言っても、そりゃ拗ねるだろう。俺に何の相談もなく会社を辞めるなんて宣言するんだからな」
ほんの少し、声にも落ち着きが戻ってきたのか、私の目を見ながらゆっくりとそう言ってくれた。
ただ、大きなため息は聞かされたけれど。
「俺は、結婚するって事は真珠と一緒に人生を作っていくもんだと思ってる。
きっと、楽しい毎日を送れるだろうけれど、悩む事だってもちろんあるって覚悟はしてるけど、それでも二人で何もかもを決めて生きていくんだって思ってる。
違うか?」
ため息の後の言葉は重かった。
「真珠を愛してるから真珠を幸せにしたいのに、それは二人で努力しないと無理だ。俺だけがそう思っていてもだめだし真珠が俺に幸せにしてもらいたいって思わなきゃ、本当の幸せなんて儚いもんだろ」
諭すような声音は一語一語私を責めているようにも聞こえて、何だか申し訳ない。
司の目の奥にある不安が露わに向けられて、私だって胸が痛むし悩む。
そして、ここまで司を不安にさせてしまってごめんねの気持ちと、ようやくお互いの本当の感情が出せるようになったのかなと思えて緩んでしまう気持ち。
その両方がせめぎ合い、私の心はいっぱいいっぱいになってこぼれ出しそうだ。
こぼれ出すのは全て司を愛しているという普遍的な気持ちに基づいている温かいもので、次々と湧き出てくる強い思い。