女王様のため息
「司、私も司を愛してるから、司を幸せにしたいって思ってるんだからね。
司だって私を愛しているのなら、そう思う私の気持ちを理解できるでしょ?」
司の眉間に浮き出ている皺を指先でそっと撫でると、びくんと弾む体。
「この目で優しく私を見つめて欲しいし、この口で嬉しくなる言葉をいくつも伝えて欲しいし。それにたくさん抱きしめて欲しいって思う。
司も同じでしょ?」
普段の私のイメージとは違う声音と言葉は、司を戸惑わせるには十分だったらしく、
「あ、……ああ、抱きしめ合いたいと、思うけど……」
たどたどしい囁きが返ってきた。
ふふっと小さく笑う私は更に普段の自分とは違う。
それに、たとえ司の前でもこんなに思いを素直に見せた事はなかったと思う。
「同じだよ。私も、司と一緒に幸せになりたいし、司と未来を作っていきたいって思ってる」
「真珠、どうかしたか?何だか素直過ぎて、かわいすぎて……壊してしまいそうだ」
私の瞳をじっと見入りながら、司は私の頬をゆっくりと撫でた。
ずっと欲しかったこの体温を自分のものにする事が出来て以来、何度もこうして私に触れてくれたし、触れる以上の深い愛し方だって教え込まれたけれど。
二人で向かい合って、視線を絡ませて、お互いの体温を重ねる事に、いつも新鮮な感覚と幸せが湧き上がってくる。
そして泣きたくなるほどに、この幸せを手放したくないともがきたくなる。
「司……」
そのわずかな距離でさえ切なく感じた私は、思わず司の首に両手を回すと、体全体で抱きついた。
ちょうど口元に触れる鎖骨の感覚は、私がそれを甘噛みする為にあるように思えて、いつもと同じように気持ちを込めて花を残した。
私の司。
「絶対に司を離したくない。だから、仕事を辞める事にしたの」
さらに体を密着させ、首筋に吐息を落としながら、私は泣きそうな思いでそう呟いた。