女王様のため息
「会社としては、真珠さんにはこのまま仕事を続けて欲しいと思ってるんだ。
この5年で培ったスキルと人間関係をあっさりと捨てられるのはもったいない」
部長は、相変わらずの淡々とした声で言葉を続けているけれど、私としてはやっぱり区切りのいい今、仕事から離れたいと思う。
「私にもできた事なら、きっと他の誰にでもできますよ。
後任の女性に引き継いでもらえるように、私の持っているもの全てを託してもいいんで」
部長の顔色をうかがいながら、ゆっくりとそう言って、これと言って変わらない部長の表情を確認。
少しほっとした。
「司がどういうポジションに置かれたとしても、側で彼を支えられるように、私は身軽でいたいと思ってるので。やはり……」
退職したいです。
そう言おうとした時、部屋をノックする音が聞こえた。
口にしようとしていた言葉をはっと飲み込んで、部長と顔を見合わせた。
「何か、あったんでしょうか?」
「さあ、電話でもあったかな」
私は立ち上がって、打ち合わせ室のドアを開けた。
すると、
「打ち合わせ中、すみません」
頭を下げながら部屋に入ってきたのは、神妙な顔をしている司だった。
「どうして……?」
驚く私に小さく頷いて、司は部長の近くへと歩みを進めた。
そして、
「彼女の進退の件ですけれど」
真面目な声で、部長に話す司の背中は普段よりも妙に大きく感じた。