女王様のため息
「司?どうしたの……?」
私は慌てて司の隣に立った。
司は、一瞬私に視線を向けたけれど、すぐに部長に向き直り小さく息を吐いた。
「お話中すみません。彼女と結婚する設計部の宗崎です。
できれば僕も話に加わりたいんですけれどいいでしょうか」
司の顔を見ると、どことなく明るさが浮かんでいてそれほどの緊張感は感じられなかった。
どうして司がこの場にいるのかわからなくて、戸惑う私はもとより、部長だって困っているように見える。
そんな部長は、気持ちを切り替えるかのように表情を作ると。
「えっと、真珠さんの退職の件なら、今話してたんだけど。
会社としては、というか私自身の意見としてもこのまま仕事を続けて欲しいと思ってるんだ」
探るような口調で傍らに立つ司を見上げた。
「結婚しても、仕事を続けてもらえるように、彼女を説得してもらえないだろうか?」
静かに話す部長をじっと見つめながら、司は何故かくすりと笑って、口を開いた。
え?もしかして、笑ってる?
この場の雰囲気にそぐわない司の様子に驚いて、視線を動かせずにいると。
「説得するも何も、彼女は自分で自分の人生を決めるので。
僕はそれを受け止めるしかできないんですよ」
「は?」
「部長からも言って欲しいんですよ、少しは周りの意見も聞いてから決断しろって。退職するって話も突然決めて驚かされて、今も彼女がどんな発言をしているのかが気になって仕方がなかったんで、思わず来てしまいました」
ははっと軽く笑って、司は私の頭をかつんとげん骨。
「な、何するのよ、部長の前でしょ」
司のふざけたような言葉と態度に私は慌てた。
「部長、すみません、えっと、その、彼は別にふざけてる訳じゃ……」
「ふざけてないですよ、不安なだけで」
「つ、つかさっ」
「彼女、わがままではないんですけど、一人でぐずぐずと悩んでは勝手に結論を出すんで目が離せなくて。
仕事を辞めるっていうのも、結婚後僕が仕事を順調に進められるように考えた結果で。
……かわいい女ではあるんですけど、一人で暴走しがちなんです」
何度か私に瞳を向けて、最後に肩を竦めた司からは照れくささなんか全く感じられないし、逆に言葉を失うくらいに恥ずかしさがこみ上げる私とは対照的。
『かわいい女』
などと、私を形容するには少しも当てはまらない言葉を容易く言い放つ。