女王様のため息

「部長、あの、とにかくすみません」

司の言葉に気圧されているような部長に、とりあえず謝ると、部長ははっと気づいたように背を正して。

「いや、相模くんからたまに名前が出ていたから注目はしていたんだけど、仕事だけじゃなくて奥さんに対しても彼に似てるな」

少し呆れたような声で司に呟いた。

司と私を交互に見ながら、どこか楽しげに笑うと。

「相模くんの奥さんはもともと相模くんの部下だったんだけどな、『建築界の至宝』なんて言われてるのに彼女に惚れてからというもの、全ての軸は彼女で、もう可愛くて仕方がないって隠す事もしなかったし。
まあ、彼女も相模くんに惚れていたから万事OKだったんだけど」

そこで小さく肩を震わせて笑い声をあげた部長は、何かを思い出したのか顔がくしゃりと緩んでしまった。

「そう言えば、相模くんも奥さんの事、『可愛くてたまらない女』って酒の席で言ってたよ」

「可愛くてたまらない……」

思わず呟いた私は、ちらりと司を見遣った。

すると、司も私に視線を落としていて目が合ってしまった。

意味ありげににやりと笑った司は、思わせぶりに

「部長、それじゃ不十分ですよ。『可愛くてたまらないし、誰にも見せたくない』ってのが正解です。相模さんは、奥さんの葵さんの事をいつもそう言ってのろけるんです。それに、酒の席だけじゃなくて、素面の時にも平気で言ってます」

「……」


「……」

大きく笑った司の言葉に、部長と私は言葉を返せず、ただただ呆然としていた。

いつもクールな印象で仕事を進め、設計に携わる社員達、ううん、社外の人も。

誰もが憧れる相模さんなのに、実は愛しい人への熱い思いに満ちている人だったなんて、驚きだ。

これから相模さんを見る目が変わりそうだ。

「そんな相模さんの側で仕事をして、プライベートも見せられている僕なんで、真珠をかわいいと思うのも当然で、彼女が望む未来を作る為に生きているのも仕方ないんです」

「あ、ああ、そうだな……」

自信に満ちた幸せそうな司の声に圧倒されたのか、部長はただ相槌をうってるだけで、言葉が続かない。


< 338 / 354 >

この作品をシェア

pagetop