女王様のため息
「だから部長のお気持ちはよくわかるんですけど、彼女が仕事を続けるか退職するかは彼女の好きにさせてあげたいんですよね。
なんせ『かわいくてたまらない女』なんで。
部長の期待に応えられなくてすみません。でも、彼女の幸せが僕の幸せなんで」
続けざまの司の言葉に、部長は呆れたように肩を落とした。
「相模は一体何を部下に教えているんだ……」
吐き出すような声音で呟いた部長は、しばらく自分を落ち着けるように手元の資料を手でもてあそびながらぶつぶつと愚痴をこぼしている。
「真珠さんが退職するとなると、結構な影響が出るんだけどなあ……。
辞めたいってのを無理強いするってのも酷だし」
投げやりに頭をかいている部長は本気で困っているようで、何だかおかしな気持ちになってしまう。
たった一人の女性社員である私の退職が、業務にそれほどの影響を与えるとは思えない。
私よりも勤続年数が長くて重要なポジションに就いている女性はたくさんいるし、私も彼女たちを目標に仕事をしてきた。
確かに総務部での仕事量は多いけれど、だからと言って引き継ぎができないわけでもないし、後任が困らないように資料も用意しているから大丈夫だと思うんだけど。
重々しい表情でため息をつく部長を見ていると、私自身が相当重要な人間のように思えてきて訳が分からない。
「部長、引き継ぎはちゃんとするので、安心してください」
そっと窺うように呟いた。
けれど、部長の瞳は冴える事もなく。
「真珠さんの持っているスキルなら時間はかかるだろうけど引き継げる。
しかしだ、この5年で築いた人脈と信頼関係をすぐに誰かが引き継ぐなんて無理だろう?」