女王様のため息

『もう無理だ』

司は、そう呟いた時、これまでに見せられた事がないほどの悲しい表情で私を見つめた。

私の戸惑う気持ちを優先してくれたのか、キス以上は何もしようとはしなかった彼から感じた苦しみが一体どこからくるのかがわからなくて、私はただ黙っているしかできなかった。

夕べ、何がきっかけで、司と私の距離や関係が変化したのかを何度考えても、これが正解だと思える理由は浮かばない。

私への態度は一貫して『密な同期』という、つかず離れずの飄々としたものだったのに、何が彼の切り替えスイッチを押したんだろう。

やたらつらそうにしていた夕べの司の事が気になる。

ただでさえ、入社して以来好きだという気持ちを隠しながら笑っていた私には限界に近いほどの圧がかかってる。

司の事が好き過ぎて、体がどうにかなってしまいそうな、でも司の側を離れるなんて考えられないという、本当にどうしようもない毎日が、私を圧迫している。

そんな重苦しい気持ちにため息を吐きながら、手元のメールをようやく開封してみると。

『今夜の夕飯おごれ』

という、なんともあっさりとした文面が目に入った。

「なんだ、いつもと一緒。……おごれなんて、本当、俺様だな」

肩を落としながらも、普段司からもらうメールとなんら変わらない調子の文面に、少し安心しながらも、逆に苦しさも倍増した。

「振り回さないでよ。……好きなのに、ばか」