女王様のため息
「現場の改善だけじゃない。どの部署に誰がいてどんな業務を担っているのかだとか、何か問題が起きた時に誰に頼ればいいのかだとか。
一朝一夕には得られない知識を持っている。
そして、役職なんて関係なく誰に対しても真摯に向き合う姿勢に惚れこんでいる社員は多いんだよ。
仕事がどれだけできるかっていう事よりも、ある意味重要な事だ」
「え……っと」
次々と私をいい気持ちにさせてくれる言葉を落としてくれる部長の顔がまっすぐに見れない。
恥ずかしさと照れくささが相まって、どんな顔をしていいのやら。
どうしようもなく俯くしかなくて、私の視線は足元をじっと捉えるだけだ。
褒められるなんて、慣れてなくて困る。
どんどん熱くなっていく頬は、きっと赤くなってるはずで、その頬をじっと見つめる司の視線が更に体温を上昇させる。
「真珠、俺が思っていたよりも数倍いい女だったんだな」
ふと呟いた司の言葉が部屋に響いて。
その言葉の甘さに私は一層顔を上げられなくなってしまった。
部長も司も、お願いだからこれ以上私を困らせないでよ。
上司から指示される事や、後輩からあらゆる事を頼まれるのには慣れているけど、単純に持ち上げられて褒められるのには免疫がない。
お願いだから、これ以上は。と必死で願ったけれど。
もう、このまま何も言わず、聞かずに部屋を出て、早く自分のデスクに避難して気持ちを落ち着かせたいと願う私の気持ちを無視するように。
「俺、更に真珠を手放せなくなったわ」
……真面目な顔で言うんじゃない。
それに、今まで僕だったのに、俺になってるし。
もう、心臓のバクバクがひどすぎてどうしようもない。
そんな私の状態に気遣う事もなく、妙に緩みきった声の司は。
「今までよりもずっと、真珠を幸せにしたいって思うから。
真珠が幸せになれると思う選択をしていいぞ。
俺は、真珠と一緒に未来を作る事ができれば満足だから」
更に追い打ちをかけるような甘い台詞を呟いた。
そして、部長がどんな顔をしているのかが怖くて、私はますます顔を上げられなくなったのは、言うまでもなかった。