女王様のため息
その後、
『まあ、二人で考えてみてくれ。会社としては、少なくとも引き継ぎが十分に終わるまでは真珠さんの退職は認めたくないんだけどな。
まあ、二人の人生でもあるし、よく考えてくれ』
苦笑と呆れたため息に満ちた部長の言葉によって、まるで拷問のようなこっぱずかしい時間は終わった。
『相模くんは、仕事だけじゃなく、恋人を大切にする事も教えているらしいな。彼いわく、愛する気持ちがなければ図面は書けないらしいから、部下の教育はうまくいってるようで安心したよ』
部屋を出る時の、部長のあからさまなからかいの言葉に、私は息が止まり、司は満面の笑みを浮かべ。
部長が去った後の部屋で、私達は何だか食い違う思いがおかし過ぎて、不思議な笑いが込み上げてきた。
司にしてみれば、私が部長からの慰留の言葉に流されて不本意な決断をしないように来てくれたに違いないんだろうけれど、そのヘルプは私を余計に疲れさせるものだった。
司は満足げな表情を私に向けて、頷くと
「俺の仕事を考えてくれるのは嬉しいし、ゆっくりと俺の奥さんを楽しんでくれるのはたまらなく幸せだけど。
退職の事は真珠が決めていいから、もう少し考えてみれば?
真珠が笑顔で毎日を過ごしてくれれば俺も幸せだから」
……そうは言っても。
やっぱり、私は。
「俺、真珠と一緒に未来を作れる事だけで幸せなんだよな」
にんまりと笑って自分の思いにふける司は本当に幸せそうに見えるし、そんな司が私も大好きだし、その笑顔の側で未来を作っていける事がたまらないほどに幸せだ。
だから。
「年末のボーナス貰って退職っ。決めた」
威勢よく叫んだ。迷いはない。