女王様のため息
「はやっ。本当にそれでいいのか?俺に気を遣ってないか?」
そんな私の言葉に慌てたのは司だ。
「気を遣ってないかといえば、よくわかんない。
でも、会社に私の代わりならこれからどれだけでも出てくるけど、司の奥さんは誰にも代わって欲しくないし。だから、いいの。司が大好きな相模さんの下で大好きな仕事をするサポートをしようって決めた」
「……何度も聞いてるけど。本当にそれでいいんだな?」
「うん。何度もそう言ってるでしょ。だから、私の事をちゃんと幸せにしてよ。司しか、私を幸せにできないし、司の事も私しか幸せにできないんだからね」
「……了解しました、女王様」
目を細めて私を愛しげに見つめた司は、そっと私の腕を掴んで抱き寄せると。
「ちゃんと幸せにするし、愛するから安心しろ」
耳元に囁いてくれた。
私は小さく頷いて、その背中に腕を回した。
抱き合いながら、お互いの気持ちが完全に重なり合った事を実感して、その浮遊感に浸る。
何度もお互いの気持ちを伝えあって、ちゃんと愛し合っていると確認もしたけれど、その流れの中心には私の異動から生まれる不安がどんと居座っていた。
司は一度もぶれる事なく私の側にいてくれると言い続けてくれたし、行動だって早かったけれど、そうする事が二人の未来に本当にいいのかどうかわからなかった。
今でもそれはよくわからないけれど、こうして私が会社を退職して、司の未来がどう転がっても支える事ができるように身軽になれたという事に安堵感が溢れる。
私の決断は私が実は望んでいた事なんだなとも実感して、思わず笑顔になる。
何のしがらみも、重荷もなく、司を愛していける事への幸せが溢れて震えるほど。
そんな私の耳元に、司は潜めた声で吐息と共に呟いた。
「ここが会社じゃなかったらすぐに抱くんだけどな」
「……バカ」
「くくっ。バカで結構。愛する女をこうして抱きしめられるならどれだけでもバカになるさ」
私をぎゅっと抱きしめて、この甘い言葉を平気で囁く男が愛しくてたまらなくて。
ここが会社じゃなかったら……。
私もそんな事を思ってしまって体中が熱くなった。