女王様のため息


ヴァイオリンの艶やかな音が室内に響く中で、その場にいる人皆がその雰囲気に浸っていた。

宴会担当の人らしい人は、エプロンのポケットからハンカチを出して涙を拭っているし、ホテルのお偉いさまに違いない恰幅のいい人も身動き一つせずに暁が生み出す音色に聞き惚れている。

目を閉じ、楽しげにヴァイオリンを弾く暁は、ただその瞬間に自分の思いを閉じ込める事に没頭していて周囲のそんな様子には全く関知していないよう。

高校時代にも何度か演奏している姿は見たことはあるけれど、当然だとはいえかなり技術があがっているし深みも増していると。

素人ながらにわかる。

「プロなんだねー。部屋の空気が変わったもん」

思わず呟く私に、伊織は小さく笑って。

「うん。私も再会して初めて生演奏を聴かせてもらった時鳥肌がたったよ」

「あ、わかるわかる。……私の披露宴で演奏してもらえるなんてもったいないくらい」

CDデビューもして、世間でも話題となっている演奏家『神田暁』の生演奏。

普通ならお金を払わなければならないほどなのに、単なる高校の同級生だというだけで、弾いてもらえるなんて、本当に夢のようだ。

「真珠ちゃんが気にする事ないんだよ。私たちがみんなに心配をかけてしまって、そのお詫びの意味もこめて披露宴という大切な時間を借りるんだから。
私たちの方が感謝でいっぱいなのに……」

小さい囁きながら、強い想いがこもった言葉が私に向けられて、思わず見つめ返した。


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