女王様のため息
華奢な体がわずかに震えていて、隣にいるとその儚さがよくわかる。
人前に立ってみんなを引っ張るタイプではないけれど、ちゃんと自分の気持ちに素直に従える強さを身にまとっている伊織は、誰からも一目置かれる存在で、気遣いのできる優しさは今も昔も変わっていない。
「伊織、いいんだよ。二人が別れた理由を聞けば、再会できたことを喜ぶ人はいても過去に文句を言う人はいないから」
「でも、みんなに黙って消えちゃって……」
「仕方ないよ。確かに、他にもいい方法はあったかもしれないし相談してほしかったけど。あの頃は、高校生だったんだよ、まだ大人になりきれてない子供だったんだもん。逃げてしまいたくなるよ」
「真珠……ごめんね。私が強かったら、暁だって苦しまなかったし人生が変わってたと思うのに」
伊織は、俯いて肩を震わせながらも一生懸命言葉を吐き出しては涙をこらえている。
「伊織?いいんだよ、本当に。今こうしてまた会えただけで嬉しいんだから」
「……私、こうして真珠やみんなに会いたかった。一人遠くの大学に通ってた時もずっと寂しくて。
でも……いなくなった赤ちゃんの事を考えたら申し訳なくて、私一人が幸せになれないってずっと思ってたから」
「伊織」
私は、必死で涙をこらえている伊織の体を思わず抱き寄せた。
ずっとずっと寂しさと罪悪感と。
愛する人と未来を重ねていくことができない苦しみを抱えながら生きてきたこの細い体を、誰が責められるだろう。
両親とも離れた土地での一人での暮らしは、気持ちを切り替えて生きていくためには必要な時間だったとは思うけれど、それでも一人で耐えるにはつらい時間だったに違いない。