女王様のため息
メイクさん達の腕前によって、綺麗に作ってもらった私は絵に描いたような花嫁さんだ。
白無垢を見にまとい、真っ白に塗られた顔はちょっとやそっとじゃ崩れそうにないほどに密に覆われている。
親族や友人たちと言葉を交わし、写真を撮り、控室で椅子に腰かけて時間を潰した後。
「お写真を撮りにいきますね」
親族一同の写真を撮りに写真室へ。
控室を出た時、今日初めて司と顔を合わせた。
和装の司を見るのは衣装を決めた時以来で、その日も格好よく見えたけれど、さすがに本番の今日、その格好よさは何万倍にも感じられる。
「ちゃんと角は隠してるな」
担当さんに手を引かれてゆっくりと歩く私の横に立つと、司は私の頭を見て嬉しげに笑った。
「うん。私は綿帽子が良かったのに、司が角隠しがいいってひかなかったからね。どうかな?似合ってる?」
「ああ。嫉妬に悩む角なんてこの先真珠には必要ないから綿帽子でもいいかと思ったけど、綿帽子じゃ真珠の綺麗な顔がはっきり見えないからな。
すっきりと顔が出る角隠しにして正解だったな」
うんうんと満足げに頷くその顔は、緩みきった筋肉とハの字に下がった眉でできていて、でれでれという表現がぴったりだ。
男前が台無しだな、と思いながら私も少し照れていると、傍らの担当さんが
「さ、お時間ですから行きましょうか。新郎様、先に歩いて下さいね。
仲の良いのは結構ですが、皆様お待ちですよ」
私と司の会話なんて気にする事もなく、慣れたようにそう言って急かした。
確かに今日は大安で、式も披露宴も多いらしく、スケジュール通りに動いて下さいと厳命されている。
「すみません」
そう言って写真室に向かって歩みを進めながら司と視線を交わして。
『さ、楽しもうか』
そんな言葉が聞こえてきそうな司の瞳を受け止めた。
一緒に買いに行った足袋を履いて、颯爽と、そして誇りに満ちて歩く司の背中を見ながら、今日この佳き日を一生忘れないと誓った。
白無垢の重みすら幸せで、歩幅も狭くゆっくりと歩くこの時間が永遠に続けばいいと願いながら。
たった一人、司だけの女王様は。
溢れるほどの優しさを感じながら、満ち足りた幸せのため息をついた。
【FIN】