女王様のため息
「……まあ、真珠がそう言うのならそれでいいけど。
で、結局夕べは仕事か?それともあいつ?いい年して絶賛片思い中の司くん?」

「な、なに、突然……」

にやりと笑って口元にも意地悪な感情をのせた海が、心なしか私の近くに体を寄せた。
身内である私から見ても整っていると思うその顔を間近にすると、とくん、と鼓動も驚いて跳ねる。

「そう言えば、昨日来てた女の子の間でも司くんって人気あったぞ。
設計部では次期エースで、えっと……誰だったかな、あの有名な建築士の……」

海が頭を抱えて思い出そうとしている人の名前、すぐにわかる。

私の会社の人間なら誰でも知っているその名前。

「相模さんでしょ?相模恭汰。世間にも名前知られてるからね」

「そう、その人。次期相模恭汰って言われてるのか?俺、設計やら建築やらには興味ないから良く知らないけど、すごい人なんだろ?」

「うん。すごい人って言葉につきるかな。……建築の世界なんて全く知らない私でも、彼の名前は入社前から知ってたし。入社してすぐの研修で講師として話してくれた事とかは今でも覚えてるし……。賞もいくつかとっていて、建築界の宝って呼ばれてる。相模さんこそ、『極上の宝石』って言葉がふさわしい。
それくらいすごい人だよ」

私自身、相模恭汰という人を尊敬しているせいか、話す言葉の勢いも増して、聞いている海は茫然としていた。

「あ、ごめん、ちょっと熱くなったね」

そんな自分が恥ずかしくて、思わず俯いてしまった。

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