女王様のため息
「真珠が今の会社に入社して、司くんに出会ってからずっと泣きそうな顔で笑ってたって……自分では気づいてないよな。
口元を上げて表情を作ってもさ、笑ってるつもりが笑えてなくて、本当は泣いてるんじゃないかってずっと思ってた」

「な……突然何よ」

ぺたん、とカーペットに座り込んでいる私と膝を合わせるように体を寄せた海は、私の心拍数が一気に上がったことなんてお構いなしに言葉を続ける。

昔から、そうだ。

私に何かを言わなくてはいけないと思い込んだなら、たとえ私がそれを拒もうとしても関係なくて、諭すように言葉を並べて落としていく。

その度私の中に、海から与えられる、私が隠している『真意』を突きつけられる。

正論を言って、私を言い負かすわけでもなく、海自身の気持ちで私をどうこうしようという強気なものは何もないけれど、海が言葉にして私に伝える時は、そうするのが一番だと、海が納得してのことだから。

機は熟した、ってことで、私そのものを揺らすに違いない言葉を聞かされるのを覚悟して待つ。

この緊張しか感じられない時間、高校生の時から何度目になるだろう。

『お前が大切なんだよ』

そう言って私の心を縛り付けたまま、私とはどうにかなろうとも、なれるとも思っていない海。

私を縛り付けたその言葉が、私たちの関係を『親戚』という枠の中で一生を終えるだろうと納得させるには十分の力を持っていると、わかっていて口にした意地の悪いオトコ。

そして、

「お前が大切なんだよ」

今もまた、私にその言葉を落とした。
< 43 / 354 >

この作品をシェア

pagetop