女王様のため息

「俺が真珠を一生側において幸せにしてやれるとは思ってないけど、だからといって今の司くんの側にいる事が真珠の幸せだとは思ってない。
付き合って長い恋人がいる男を好きになる気持ちを否定しないけど、そろそろ潮時じゃないか?」

「海……」

いつもと変わらない淡々とした口調が私に向けられて、海の視線はまるで私に

『逃げるな』

と体を刺すように見える。

高校時代から、絶えず一緒に行動してきた海のそんな様子。
何度か見せられた時全てが、私の人生の大切な時。

志望大学や就職先を決める時の私の揺れすぎる気持ちを一喝するような、それでいて私に格別の愛情を注いでくれるような、身内に似た真摯な想い。

そんな海からの『逃げられない』想いをぶつけられる度に私自身を考え抜いてここまできた。

周囲のみんなからは、『女王様』と呼ばれて強くて鋼のような女だと思われているけれど、そんな私が本当は優柔不断でもろい神経の持ち主だと知っているのが海。

『女王様』だと呼ばれている私が、度を過ぎた無理をしないように時々空気を抜く役目をしてくれて、そして強くて動じない私を演じられるよう心を穏やかに保ってくれるのが海。

「真珠が心から穏やかに安らげて、弱虫な顔を見せられるような男がきっといるはずだぞ」

「でも……私……」

司への思いをすぐに断てる自信もないし、結局はずるずると司に気持ちを寄せたまま女王様の仮面をかぶってしまう。

そんな自分が簡単に予想できて、何も答えられない。

いつも。


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