女王様のため息

「俺がいなきゃ不安定な彼女は……今はもう、俺がいなくても誰かが守ってくれる女になったんだよ」

「え……?」

「あいつは、もともと俺の親友の恋人で、その親友に振られて精神状態がおかしかったんだ」

おかわりのビールが目の前に置かれて、司は一旦言葉を止めた。

次に司が言葉をつなげるまでのほんの一瞬がかなりの時間に感じつつも、司が口にしている言葉の意味がよくわからなくて。

「親友の恋人……」

司の言葉をただ繰り返しながら、自分の気持ちを整理しようかと、それはまるで自分を守る防衛本能のように。

期待しちゃいけないと、司の言葉に希望を見出してはいけないと、無意識に心をガードする事も忘れないように、司の言葉を待った。

「まあ、今も完全に復活しているわけじゃないんだ。
時々、つらい思い出がよみがえるのか過呼吸になって苦しんだり、不安に耐えきれなくて意識を失ったり、側で見ていて苦しかったよ」

新しいビールをぐぐっと半分ほど飲んで、そして私に顔を向けた司は、そっと手を私の膝の上に乗せた。

触れそうで触れ合わない距離の体温を感じながら過ごしていた、何年もの切ない時間が一気に縮まっていく。

確かに温かさを感じる私の膝の上の司の手のぬくもりは。

「そんな彼女をどうにか助けようとしたけど、結局俺の力じゃどうにもならなかったんだ。
彼女を本当に愛していたわけじゃなかったから、彼女を苦しみから救いあげるなんて事、できなくて当たり前だ」

司が抱えてきたに違いない切なさや苦しみを、私に教えようとしていた。

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